2025年6月1日、改正された労働安全衛生規則が施行され、熱中症のおそれがある作業を行う事業者に対して、報告体制の整備と措置の実施手順の作成、そして作業者への周知が義務づけられました。屋外の交通誘導やイベント警備を主力とする警備会社にとって、これは「暑い日は水分を取らせる」という従来の心がけとは性質の異なる、体制そのものを整えて文書化する義務です。
とりわけ難しいのが、隊員が一人で立哨する現場です。国が推奨する報告体制の方法のうち、複数人で互いを確認する仕組みはひとり現場では成立しません。本記事では、義務化された内容と自社の現場が対象になるかの判定基準を整理したうえで、ひとり現場を前提とした報告体制の作り方と、管制システムを使った実装方法について解説します。
今回の改正で新設されたのは、労働安全衛生規則第612条の2です。改正省令は2025年4月15日に公布され、同年6月1日から施行されています。事業者に課された義務は、次の3つに整理できます。
1つ目は、熱中症の自覚症状がある作業者と、他の作業者に熱中症が生じた疑いがあることを発見した者が、その旨を報告できる体制の整備です。2つ目は、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察または処置を受けさせることなど、症状の悪化を防止するために必要な措置の内容と実施手順を、作業場ごとにあらかじめ定めることです。そして3つ目が、整備した体制と定めた手順を、その作業に従事する者へ周知することです。
注意したいのは、3つ目の周知までが義務に含まれている点です。社内に手順書が存在していても、現場に立つ隊員がその内容と報告先を知らなければ、義務を果たしたことにはなりません。
厚生労働省が公表している職場の熱中症による死傷災害の統計には、「警備業」という独立した業種区分が設けられています。2025年(令和7年)の確定値を見てみましょう。
職場全体の死傷者数は1,803人で、前年の1,257人から約43%増加しました。死亡者数は19人です。このうち警備業は死傷者199人、死亡者3人。さらに2021年から2025年までの5年間で見ると、警備業の死傷者は614人、死亡者は18人にのぼります。死亡者数の業種別構成比では、警備業の13.7%は建設業の39.7%に次ぐ2番目の水準です。死傷者数の構成比が11.1%で4番目であることと比べると、警備業では被災が死亡に至る比率が相対的に高い、という読み方ができます。
背景として考えられるのは、警備業務の現場条件です。炎天下のアスファルト上で長時間立ち続ける交通誘導、日陰のない屋外イベント、そして隊員一人が単独で配置される現場。異変に気づく人が周囲にいない状況が、初期症状の放置につながりやすい構造をつくっています。今回の改正が早期発見と重篤化の防止を目的としていることを踏まえると、警備業はまさに改正の狙いの中心にある業種だといえます。
義務の対象になるのは、すべての作業ではありません。「暑熱な場所」で行われる一定時間以上の作業が対象です。判定の基準は4つの観点で整理できます。
通達では、暑熱な場所を「湿球黒球温度(WBGT)が28度以上又は気温が31度以上の場所」と定義しています。どちらか一方の条件を満たせば該当します。夏季の屋外現場は、多くの日でこの条件に入ると考えておくのが現実的です。
暑熱な場所において、継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象です。非定常作業や臨時の作業であっても、この条件を満たすことが見込まれる場合は対象に含まれます。半日以上の立哨が基本となる交通誘導の現場は、実質的にほぼすべてが該当することになります。
通達は、暑熱な場所が「必ずしも事業場内外の特定の作業場のみを指すものではなく、出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨」と明記しています。1日に複数の現場を回る巡回や、現場間の移動そのものも判定の対象になるという点は、見落とされやすい部分です。
該当するか否かは、原則として作業が行われる場所でWBGTまたは気温を実測して判断します。ただし通達は、通風のよい屋外作業について、天気予報(スマートフォンのアプリケーションによるものを含む)や環境省が運営する熱中症予防情報サイト等の活用によって判断可能な場合には、これらを用いても差し支えないとしています。全現場にWBGT計を配備しなくても運用できる余地があるということです。
義務の内容は明確でも、警備業の現場条件をそのまま当てはめると、報告体制が実質的に成立しない場面が出てきます。3つの構造的な理由があります。
通達は、報告を受けるだけでなく積極的に早期発見を行う観点から推奨される方法として、責任者等による作業場所の巡視、2人以上の作業者が作業中に互いの健康状態を確認するバディ制の採用、ウェアラブルデバイスを用いたリスク管理、責任者と労働者双方向での定期連絡、およびこれらの組合せを挙げています。
このうち、交通誘導のひとり現場で成立するものを絞り込んでみます。巡視は管制員が全現場を回れる体制がなければ難しく、バディ制は前提となる複数配置がありません。ウェアラブルデバイスについては通達自身が「必ずしも当該機器を着用した者の状態を正確に把握することができるわけではない」として他の方法との組合せを求めています。結果として、ひとり現場で中核になり得るのは「責任者と作業者の双方向での定期連絡」という選択肢です。
2025年の死亡事例には、警備業の70歳代の男性が建設現場に警備員として入場し、屋外で一般車両の誘導業務を行っていた事案が記載されています。15時頃にうつ伏せに倒れているところを発見したのは、通行していた一般車両の運転手でした。現場付近の気温32.3℃、WBGT29.6℃が参考値として併記されています。
「熱中症が生じた疑いがあることを発見した者に報告させる体制」を整えるとき、その発見者が自社の隊員や社員であるとは限りません。ひとり現場では、最初に異変に気づくのが第三者になり得ます。この前提に立つと、体制は発見されるのを待つだけでなく、こちら側から定期的に状態を確認しにいく設計が必要になります。
通達は、熱中症について「帰宅後も含め、時間が経ってから症状が悪化することがある」と述べ、事業場における回復の判断は慎重に行うことが重要だとしています。そのうえで、回復後の体調急変時の連絡体制や対応を、事業場の実態を踏まえてあらかじめ定めておくことが重要であるとしています。
直行直帰が基本の警備業では、下番した隊員はそのまま帰宅します。夕方以降に事務所へ誰も残らない運用の場合、体調が悪化した隊員が誰に連絡すればよいのかが決まっていないことは珍しくありません。統計資料でも、気温が下がった17時台や18時台以降に死亡に至るケースが少なからずみられ、これらには日中に重篤な症状がみられなかったにもかかわらず作業終了後や帰宅後に体調が悪化した事案が含まれていると説明されています。
安衛則第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づく規定であり、個々の事業者に対して措置義務が課されます。ここで重要なのが、混在作業の扱いです。
通達は、建設現場にみられるような混在作業であって同一の作業場で複数の事業者が作業を行う場合、その作業場に関わる元方事業者および関係請負人の事業者のいずれにも措置義務が生ずると明記しています。さらに、措置が行われていなかった場合には元方事業者のみに違反が生ずるわけではなく、当該作業場に関わるすべての事業者に違反が生ずるとしています。
つまり、元請けの安全管理体制に組み込まれていることを理由に、入場する警備会社の義務が免除されるわけではありません。実務上は、各事業者が共同で1つの緊急連絡先を定めて作業者の見やすい場所に掲示する方法が通達に例示されています。現場側の連絡先に相乗りする形を取る場合でも、自社の隊員に対してその連絡先を周知する行為は自社で行う必要があります。
周知の記録について、通達は「現場で周知した結果の記録の保存までは法令では求めていないが、労働基準監督署による確認に際しては、事業者として適切に対応することが求められる」としています。保存が義務化されているという説明も見かけますが、通達の記載はこの通りです。
とはいえ、確認を受けた際に「周知しました」と口頭で答えるだけでは、事業者として適切に対応したことを示しにくいのが実情です。義務ではないという理解のうえで、誰にいつ何を伝えたかが後から辿れる形を残しておくのが安全な運用といえます。
体制の整備と周知は、熱中症を生ずるおそれのある作業が想定される作業日の作業開始前までに行っておく必要があります。ただし通達は、当該作業が同一の従事者によって一定期間連続して行われることが想定され、すでに体制の整備と周知が講じられている場合には、作業日ごとに重ねて実施する必要はないとしています。長期の道路工事現場に固定の隊員を配置しているケースでは、毎日繰り返す必要はないということです。
あわせて通達は、夏季の屋外作業のように一定期間暑熱環境下で作業を行うことが明らかな場合は、十分な余裕をもって体制を整え、従事することが見込まれる者に周知しておくよう努めることとしています。
安衛則第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づく措置義務です。同法第119条第1号は、第20条から第25条までの規定に違反したときの法定刑を、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定めています。体制を整えていない状態は、心がけの不足ではなく罰則の対象となる義務違反にあたる、という位置づけになります。
ひとり現場で中核になるのが双方向の定期連絡だとすると、それを個々の管制員の記憶と電話に依存させるか、仕組みとして持つかで運用の安定度が変わります。警備管制システムを使う場合、次の3つの形で体制に組み込めます。
一斉連絡と既読確認の機能を使い、暑さ指数が高い日にあらかじめ決めた時刻で全隊員へ体調確認の連絡を配信します。返信や既読がない隊員が管制画面上で分かる状態にしておけば、確認の抜けに気づける運用に近づきます。電話で一人ずつかけ直す方式では現場数が増えるほど回りきれなくなりますが、配信と未反応者の可視化を分けておけば、管制員は反応がなかった隊員だけに集中できます。
周知が義務に含まれている以上、隊員が自分の現場の報告先をその場で確認できることが要件になります。現場ごとの責任者名と連絡先、緊急搬送先の医療機関を配置情報に紐づけておけば、隊員は当日の配置から報告先を辿れます。朝礼で口頭で伝えるだけの運用と比べ、複数の現場を掛け持ちする隊員でも取り違えにくくなります。
帰宅後に体調が悪化した際、その隊員がその日どの現場に何時から何時まで配置されていたのかが記録として残っていれば、状況を踏まえた対応の判断ができます。上下番の報告がシステム上に残る運用であれば、当日の勤務実績と当該現場の環境条件を突き合わせたうえで、本人や家族との連絡を進められます。紙の日報が翌月まで事務所に届かない運用では、この照会に時間がかかります。
2025年6月に義務化されたのは、報告体制の整備と措置の実施手順の作成、そして作業者への周知という3点です。屋外・ひとり現場が中心の警備業では、国が推奨する報告体制の方法のうち実質的に成立するのが双方向の定期連絡に絞られるため、その連絡を仕組みとして持てるかどうかが実務上の分岐点になります。
あわせて、建設現場に入場する警備会社にも措置義務が生じること、下番後・帰宅後の体調急変に備えた連絡体制まで含めて定めておくことも押さえておきたい点です。
警備会社の管制業務の課題は、会社の規模によって大きく異なります。現場数や人員が増えるにつれて、管理の方法や負担のかかり方も変わっていきます。
そのため、システム選びも機能の多さではなく、自社の規模に合った課題を解決できるかどうかで考えることが重要です。
当メディアでは、規模ごとに異なる管制業務の課題を軸に、小規模・中規模・大規模それぞれに適したシステムを紹介しています。
ここからは、警備管制システムの選び方を踏まえたうえで、各規模の状況に対応でき、
業務効率化や負担軽減を実現するおすすめの警備管制システムとおすすめの理由をご紹介します。
30人未満の
小規模な警備会社には
| 月額料金 | 27,500円〜 |
|---|---|
| 初期費用 | 有 ※直接お問い合わせください |
30〜300人の
中規模な警備会社には
| 月額料金 | 49,500円※2 (30人の場合: 16,500円) |
|---|---|
| 初期費用 | 110,000円 |
301人以上の
大規模な警備会社には
| 月額料金 | 301人以上の料金について記載がありませんでした |
|---|---|
| 初期費用 | 110,000円 |